2012年12月4日火曜日

【一橋ビジネスレビュー】 2012年度 Vol.60-No.3

2012年度<VOL.60 NO.3> 特集:日本のものづくりの底力








12・3・6・9月(年4回)刊編集
一橋大学イノベーション研究センター
発行 東洋経済新報社


特集:ソニー、パナソニック、シャープといった日本を代表する製造企業があわせて1兆5000億円を超える純損失を計上する一方で、円高の進行は一向に止まらない。こうした状況のなか、日本のものづくりに対する悲観論が広がると同時に、製造業の空洞化論が再燃している。日本のものづくりは本当に駄目になってしまったのか。本特集では、日本のものづくりの現状を、客観的なデータに基づいて冷静に検証し、過度な悲観論に対して警鐘を鳴らす。さらに、日本のものづくり力の源流を探り、今後のあるべき方向性を模索する。

特集論文Ⅰ 日本のものづくり現場は「夜明け前」か
藤本隆宏 (東京大学大学院経済学研究科教授)
「日本のものづくり」の実力に関しては、悲観論・楽観論・慎重論などが交錯している。その要因として、国民経済、産業、企業、現場といった、異なる分析単位、異なる指標による評価が混同されているために、論理的・実証的な混乱が生じていることが挙げられる。本稿では、リカードの比較優位論に依拠して、これらの指標の間の論理的な関係を示す。また、戦後日本の現場の歴史を通観し、「1990年代の特殊性」を指摘する。それにより、これからの20年は、優良な国内現場の存続可能性は高まるという意味で「夜明け前」の状態かもしれないことが示唆される。


特集論文Ⅱ 日本企業の海外生産を支える産業財輸出と深層の現地化
新宅純二郎/大木清弘 
東京大学大学院経済学研究科教授 / 
関西大学商学部助教

1990年代から2000年代にかけて、日本企業は海外生産拡大と同時に、部材や製造機械といった産業財の日本からの輸出を増やしてきた。しかし近年、こうした産業財を海外拠点が現地調達する動きが見られている。これは、海外拠点で現地調達率を上げても、現地の部品サプライヤーが日本から部材を輸入していたり、その海外拠点やサプライヤーが日本製の製造機械を使用していたりすることが、コスト上の足かせになっているためである。こうした企業は、部材や製造機械の脱日本調達をめざす「深層の現地化」に取り組むべきである。深層の現地化で日本の付加価値「率」は減るが、コスト低下によって海外販売のパイが広がれば、日本に残った産業財の輸出が拡大し、日本の付加価値「額」を維持できるだろう。


特集論文Ⅲ 市場の自然淘汰は機能しているか──1990年代の日本経済からの教訓
西村清彦 / 中島隆信 / 清田耕造
(日本銀行副総裁・ 慶應義塾大学商学部教授 / 
横浜国立大学大学院国際社会科学研究科准教授 / 経済産業研究所ファカルティフェロー)

効率的な企業が生き残り、非効率な企業は市場から退出する。このように市場メカニズムを通じて効率的な企業が自然に選別されるという現象は、ダーウィンの進化論になぞらえて、市場の自然淘汰と呼ばれている。本稿の依拠するNishimura et al.(2005)では、生産性の高い企業は存続し、生産性の低い企業が退出するという市場の自然淘汰の機能は確認できるかどうかを分析した。結果は衝撃的であった。1997年の金融危機の時期において、存続企業と退出企業とを比較すると、退出企業のほうが存続企業よりも生産性が高い、つまり生産性の高い企業のほうが退出しているという特異な状況が起こっていたことがわかった。これに対して、金融危機以前はそうした状況は起きておらず、自然淘汰が機能しているという仮説と整合的である。

特集論文Ⅳ 日露戦後における鐘紡の工程遡り調査──武藤山治の工程間の「流れ」思想
桑原哲也 / 芦田尚道 (福山大学経済学部教授 / 
東京大学ものづくり経営研究センター特任助教
)
製品は工場内の多くの工程を経て顧客に届く。各工程で設計情報の転写が適切に行われ、後工程に適切に届けられるような「流れ」があれば、目標とする製造品質は達成される。現在、これは「品質のつくり込み」とも表現される。だが、工程間に適正な品質の「流れ」をつくるには多工程間の協働を必要とし、必ずしも容易なことではない。まずは、ある工程で顕在化した不良の原因がどの工程で生まれたのかを突き止めねばならない。明治時代末期、品質と生産性問題に直面した鐘紡・武藤山治は、最終工程で顕在化する不良の原因をマザー工場で調査した。「原因は前工程にある」との明確な調査結果をてこに、調査は工程を上流へと遡り、さらには、傘下の各工場各工程へと展開されていった。工程間の品質の「流れ」づくりが全社的に試みられたのである。

特集論文Ⅴ 東アジアに広がる中小企業とものづくりの仕組み
中沢孝夫 (福井県立大学地域経済研究所所長・特任教授) 
今日、日本企業のサポーティング・インダストリーのネットワークは、「日本」という枠を超えて、「東アジア」という「地域」へと広がっている。本稿では、タイ人が経営するタイの中小企業と、日本からインドネシアに進出した中小企業の、ものづくりの方法と人材育成の歴史を比較・概観しながら、サポーティング・インダストリーの現状をスケッチする。そこから明らかになったのは、海外進出した日本企業の成功は、日本方式の移転によってもたらされているという事実だ。日本の製造業の「組織能力」の強さは、グローバル化のなかでますます明らかになっている。人材育成を中心とした日本企業のやり方は、もっと評価されるべきであろう。

特集論文Ⅵ 日本企業の価値づくりにおける複雑性の陥穽
延岡健太郎 / 軽部 大 (一橋大学イノベーション研究センター長・教授 / 
一橋大学イノベーション研究センター准教授
)
ものづくり能力と価値づくり能力、これら2つの価値変換能力が高い企業は、顧客からかけがえのない存在と認められ、付加価値を創出することができる。日本企業は、特に価値づくり能力に問題を抱えている。日本企業が強みとしてきたものづくりにこだわることは重要である。しかし、価値づくりに必要とされる「かけがえのない存在価値」の実現は、ものづくりを狭義に捉えてしまうと難しくなった。市場の成熟化とともに、単純に高品質、高機能、低コストをめざした狭義のものづくりの価値が低下したからだ。ものづくりが自然に価値づくりに結びつかなくなった現在、価値づくりを可能にする経営のあり方を再考しなくてはならない。

[経営を読み解くキーワード]
アメリカのチェーンストア規制
畢 滔滔 (敬愛大学経済学部教授)

[特別寄稿]
知識ベースの変革を促進するダイナミック・フラクタル組織──組織理論の新たなパラダイム
野中郁次郎 / 児玉 充 / 廣瀬文乃
 (一橋大学名誉教授 / 日本大学商学部教授 / 一橋大学大学院国際企業戦略研究科特任講師)
企業が持続的に成長し、競争優位を獲得・維持するためには、新たな知識の創造と実践知の追求が不可欠である。また、事業の長期的な競争力を構築するためには、現実に立脚して新たな価値を創造し続けるイノベーションが必要である。その源泉となるのが、知識の創造と活用である。本稿では、知識創造理論をベースにした組織モデルとして、「場のダイナミックな形成によってフラクタル(自己相似)化する組織」という新たな理論を提唱する。まずは従来の組織理論を丹念に触れながら、トヨタ自動車、富士フイルム、アップルをはじめとする先進企業の事例を紹介していく。そして、暗黙知と形式知と実践知(フロネシス)が生み出され相互に作用する関係、そして、組織・企業・環境という多様な境界を止揚して継続する、知の変革のプロセスを描き出す。

[技術経営のリーダーたち]
やりたいことがはっきりすれば、扉は開く
渡辺誠一郎 (リビングイメージ株式会社 CEO兼プロデューサー)

[ビジネス・ケース]
エスビー食品──「食べるラー油」ブームとカテゴリー創造
松井 剛 (一橋大学大学院商学研究科准教授)
ギョーザを食べるときに欠かせないラー油。1923年に日本初のカレー粉を製造したことで知られるエスビー食品は、スパイスとハーブのリーダー企業として、ラー油市場でも8割のシェアを誇ってきた。しかし、桃屋が「辛そうで辛くない少し辛いラー油」を2009年8月に導入したことで状況は一変する。これは、本来「かける」ものであるはずのラー油をご飯などにのせておかずとして「食べる」というまったく新しいラー油であった。これに対抗すべく、エスビー食品は、わずか7カ月後に「ぶっかけ!おかずラー油 チョイ辛」を投入した。新しいラー油をめぐる2社の競争は社会的にも注目を浴び、「食べるラー油」は空前のブームとなり、ラー油全体の市場規模は10倍にまで急拡大した。「食べるラー油」という新しいカテゴリーは、どのようにして創造されたのだろうか。また、従来型のラー油のリーダー企業であるエスビー食品は、どのようにしてこのブームのなかで機敏に市場シェアを獲得していったのか。本ケースではこの経緯を明らかにする。

[ビジネス・ケース]
日立ハイテクノロジーズ──世界の半導体微細計測を支える測長用SEM
中馬宏之 (一橋大学イノベーション研究センター教授)
本ケースで取り上げる日立ハイテクノロジーズは、測長用SEMの分野で、ほぼ四半世紀にわたって世界トップシェアを維持している。同社はその日本経済への貢献がたたえられ、2007年度の大河内記念生産賞を受賞した。本ケースでは、長期間にわたる聞き取り調査や各種公開データ(含む特許、論文)解析、1960年代にまでさかのぼった歴史分析に基づいて、同社の高い競争力の源泉を探る。豊富な“究極の自前技術” を保有しながらも“究極の自前主義” に陥ることなく世界との緊密な結びつきをさらに深めようとする同社の姿勢こそ、現代の多くの日本企業に強く求められているものだと思われる。


[連載]はじめてのビジネス・エコノミクス
[第3回]大きなパッケージが「割安」な理由──購買履歴に応じた価格設定
柳川範之 (東京大学大学院経済学研究科教授)


[コラム]偶然のイノベーション物語 第6回(最終回)
偶然・奇遇とセレンディピティ(続)
榊原清則 (法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科教授)

[私のこの一冊]
半世紀読まれ続けている古典中の古典──アルフレッド・D・チャンドラー、Jr.『組織は戦略に従う』
 吉原英樹 (神戸大学名誉教授)

「シリコンバレー」の構造を概念化する──アナリー・サクセニアン『現代の二都物語』
 椙山泰生 (京都大学経営管理大学院教授)

[マネジメント・フォーラム]
インタビュアー/米倉誠一郎
ものづくり復権のため「科学技術は面白い」という文化の創造を
ジェームズ・ダイソン (ダイソン・リミテッド チーフエンジニア)

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