2015年3月13日金曜日

【一橋ビジネスレビュー】 2014年度 Vol.62-No.4

2014年度<VOL.62 NO.4> 特集:デザインエンジニアリング
 「機能か、デザインか」の二者択一ではない









12・3・6・9月(年4回)刊編集
一橋大学イノベーション研究センター
発行 東洋経済新報社


特集:
製造企業が自社製品の顧客価値を高めるためには、ものを創る技術(ハードとソフト)だけではなく、ユーザーインターフェース、デザイン、広告といった機能を統合して創り込むマネジメントが重要になっている。これは、ものづくり分野とクリエーティブな分野の統合によって価値を創造することであり、その統合的な顧客価値を「デザイン価値」と呼ぶ。このデザイン価値を創り出すには、デザインを重視するというよりも、デザインとエンジニアリングを真に融合させた経営が製造企業には求められることになる。本特集では、デザインとエンジニアリングの統合に関するアプローチについて多様な角度から論じ、この統合的な顧客価値創造のあり方を考察する。

特集論文Ⅰ デザイン価値の創造―デザインとエンジニアリングの統合に向けて
延岡健太郎/木村めぐみ/長内 厚
(一橋大学イノベーション研究センター長・教授/一橋大学イノベーション研究センター特任講師/早稲田大学ビジネススクール准教授)
デザインは、ものづくりにおける顧客との接点として製品の価値を創り出す。この価値を「デザイン価値」と呼ぶとすると、高度なデザイン価値を創出するためには、デザインとエンジニアリングの真の融合が必要となる。今、日本の製造企業に求められているのは、その融合に向けた取り組みであり、マネジメントだといえる。本稿では、革新的なアプローチによってデザインとエンジニアリングの統合を実現し、デザイン価値の創出に成功しているイギリス企業のダイソンへの聞き取り調査や、デザイン価値創出の担い手となる「デザインエンジニア」を育成するイギリスの大学の教育プログラム調査を行った。これらの調査結果の考察と、日本でもデザイン価値経営に成功していたソニーの事例研究を通じ、今後日本の製造企業が取り組むべきデザイン価値経営や、日本のイノベーションのために必要な人材育成のあり方を示唆する。

特集論文Ⅱ デザインエンジニアリングの時代
山中俊治(東京大学生産技術研究所教授)
いつの時代も、イノベーティブなものづくりはデザインとエンジニアリングの密接な連携によって生まれてきた。にもかかわらず近年、デザインエンジニアリングという言葉が頻繁に使われるようになった背景には、20世紀の資本主義産業社会において主流であった「形と機能」を分離して専門家に委ねる開発手法の限界が露呈し、ネットとファブを足がかりに、まったく新しいクリエーターたちが台頭してきたことがある。新世紀のデザインエンジニアたちは、芸術と科学の領域の壁を越えて、先端技術の夢をリードするプロトタイピングにまい進する。いまや経営においても、科学的合理性と美的感覚をあわせ持つデザイン・エンジニアリング・マインドが必要とされている。

特集論文Ⅲ デザインエンジニアリングの実践
田川欣哉
(takram design engineering 代表・Royal College of Art客員教授)
デザインエンジニアは、新しい製品、新しいサービスなどを立ち上げることに特化した新しいタイプの人材である。デザインエンジニアは、不明瞭な状況のなかにおいても、手探りのなかから確からしい仮説を構築し、それをプロトタイプで実証し、ストーリーで補強する。そして、そのサイクルを高速に繰り返すことで、短時間でコンセプトや設計の品質を上げていく。デザインエンジニアは、イノベーションを生み出す現場に貢献する新しい人材の姿を提示している。


特集論文Ⅳ デザイナーの役割分担について国際比較で見た相対的特徴―日米中比較調査の結果より
鷲田祐一
(一橋大学大学院商学研究科准教授)
デザインとエンジニアリングの融合を考える、デザインエンジニアリングの研究分野において、デザイナーがビジネスプロセスのなかでどのように他の部門や部署と役割分担をしているのか、その役割分担について国ごとに相違はないのか、という視点については、意外にも今まであまり深く検証・議論されてこなかった。役割分担の構造が国ごとに違えば、「デザイン」という言葉の含意も違う可能性があり、国際的競争を前提にした経営上の示唆や手法の導入においても齟齬を生む危険性がある。本稿では、日米中の3カ国のデザイナーへの比較調査を通じ、国際間でビジネスプロセス上の「デザイン」の位置づけ・役割分担に、違いが存在することを検証した。日本のデザイナーの相対的な特徴を浮き彫りにすることによって、日本のデザインの隠れた強み・弱みが見えてきた。

特集論文Ⅴ 技術も生み出せるデザイナー、デザインも生み出せるエンジニア―デジタルカメラ分野におけるデザイン創出に対する効果の実証分析
秋池 篤/吉岡(小林)徹
(東京大学大学院経済学研究科経営専攻博士課程/東京大学大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻博士後期課程)
インパクトのある工業デザインの開発に、新たな技術は必要なのだろうか。必要であるとして、どの程度デザイナーが技術部門と関与していることが望ましいのだろうか。本稿では急激な成長を遂げたデジタルカメラ分野に焦点をあわせて、特許・意匠のデータによる実証分析と、カシオ計算機の事例研究を行った。その結果、自社に培われた新技術がインパクトのあるデザインを生み出すもととなっていることがわかった。しかも、インパクトのある技術の創出があまり行われていない場合では、デザイナーが自ら研究開発に携わることが優れたデザイン創出に効果があることも明らかになった。

特集論文Ⅵ 工学を人間らしくデザイン知識
永井由佳里
(北陸先端科学技術大学院大学知識科学研究科研究科長・教授)
工学(エンジニアリング)は、そもそも人間を超越することを志向したものといわれる。しかしながら、「人間性」を機軸にすると、これまでエンジニアリングで見えなかったものが見えてくる可能性がある。本稿では、統合的なデザインエンジニアリングのマネジメントに資する技術知識として、人間らしさを反映するデザインについて検討する。これからの社会で求められる「人間に寄り添う」デザイン像を捉えるために、デザイン研究の知見(理論・方法論)を取り上げる。そこでは、顧客価値の創出に成功した事例をもとに実社会で通用している、「デザイン知識」としてのデザインの方策やメソッドなどが基盤となる。デザイン知識を使えばエンジニアリングはもっと人間らしいものになるだろう。

[経営を読み解くキーワード]
ワークショップ
梅津順江
(株式会社ジャパン・マーケティング・エージャンシー 定性調査部 シニアディレクター)

[技術経営のリーダーたち] 第23回 
デザインの重要性が増すなかで、技術のわかるデザイナーを育てることが求められている 
武井浩介 
(TOTO株式会社 デザイン本部 デザイン本部長)

[ビジネス・ケース]
カシオ計算機―「G-SHOCK」製品開発とブランド構築の歴史 
谷川邦夫/田路則子
(法政大学大学院経営学研究科経営学専攻マーケティングコース修士課程修了/法政大学大学院経営学研究科教授)
カシオ計算機が販売するクオーツ式腕時計「G-SHOCK」。日本国内において95%という驚異的な認知度を誇る、カシオ計算機の代名詞ともいえる時計ブランドである。1983年の発売当時、日本の腕時計市場は「軽・薄・短・小」がトレンドであった。それとは相反する、ごついデザインのG-SHOCKはまずアメリカで火がつき、日本、さらにはヨーロッパ、アジア圏でも人気を博すようになった。世界でこれまで累計6000万本以上を出荷した時計ブランドは、いかにして作られたのか。技術の発明から製品化、さらにはグローバル&ローカル(グローカル)のお手本ともいうべきマーケティング戦略に迫る。

[ビジネス・ケース]
日東電工―逆浸透膜市場におけるシェア逆転のプロセス
藤山圭
(一橋大学大学院商学研究科博士後期課程)
純水と食塩などの溶液を半透膜で区切ると、純水側から溶液側に半透膜の孔を通じて水の分子が引っ張られる。その際に純水側から半透膜へかかる浸透圧以上の圧力を溶液側からかけると、水の分子は半透膜の孔を通じて溶液側から押し出される。この原理を利用して水をろ過・精製するのが、逆浸透膜技術である。特に、同技術が用いられる場面で注目されているのは、海水から塩を分離して飲料用などの淡水を造り出す市場だという。本ケースでは、日本のメーカーが逆浸透膜技術によって、世界の海水淡水化用逆浸透膜市場の7割近くを占めるに至った過程を振り返りながら、当初技術的に劣位にあった日東電工が、日本のトップメーカーだった東レにどのようにして追い着き、近年海水淡水化用逆浸透膜市場において揺るぎない高い競争優位を築き上げることができたのか、その理由について、同社のユニークな事業展開に関する経営戦略に焦点をあわせて考察する。

[連載] 経営学への招待 第4回 (最終回)
経営の日本的特徴は消えるのか―「会社の二面性」が示唆する展望
榊原清則/青島矢一
(中央大学大学院戦略経営研究科教授/一橋大学イノベーション研究センター教授)

[コラム] 経営は理論よりも奇なり 第5回(最終回)
経営者の虚像と実像
 吉原英樹 (神戸大学名誉教授)

[マネジメント・フォーラム]
インタビュアー/延岡健太郎・鷲田祐一・木村めぐみ
すべてのデザイナーに、高いビジネス、企画、エンジニアリング能力が求められる時代になった。   経営者もデザイナーのごとく考えることが必要だ
深澤直人
(プロダクトデザイナー)

[私のこの一冊]
■アントレプレナーシップの神髄を見る――司馬遼太郎『空海の風景』(上・下)
 各務茂夫 (東京大学教授 産学連携本部イノベーション推進部長)
■マーケティングのビギナーズガイド――佐伯啓思『「欲望」と資本主義』
 木村純子 (法政大学経営学部教授)

[ポーター賞受賞企業に学ぶ]第14回 
大薗恵美 (一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授)

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