2017年6月13日火曜日

【一橋ビジネスレビュー】 2017年度 Vol.65-No.1

2017年度<VOL.65 NO.1> 特集:ノーベル賞と基礎研究―イノベーションの科学的源泉に迫る







12・3・6・9月(年4回)刊編集
一橋大学イノベーション研究センター
発行 東洋経済新報社



特集:
2016年、大隅良典氏がノーベル賞生理学・医学賞を受賞した。日本出身のノーベル賞受賞者は3年連続で誕生し、日本の科学水準に対する称賛の声が上がっている。その一方、ノーベル賞は20~30年前の研究成果を今になって評価しているにすぎず、今日の大学・研究機関・企業を取り巻く状況から将来の科学技術の先行きを憂う声もある。「世の中の役に立たない」とも言われながら、科学に対するファンダメンタルな問いを明らかにしようとする基礎研究はなぜ必要なのか。ノーベル賞受賞者の分析やインタビュー、政策的背景、基礎研究の状況やその効果に関する解析から、ノーベル賞を切り口に基礎研究の意義を多面的に明らかにする。

特集論文Ⅰ 日本の政策的な文脈から見るノーベル賞
赤池 伸一/原 泰史
(文部科学省科学技術・学術政策研究所科学技術予測センター長/
政策研究大学院大学科学技術イノベーション政策研究センター専門職)
2001年、政府は国の科学技術イノベーション政策の指針たる科学技術基本計画に「ノーベル賞受賞者を50年で30人生み出す」とする目標を示した。このことは、国内外に賛否両論をもたらした。なぜ、日本の政策担当者たちはこのような「数値目標」を設定したのか。本論文では、当時の政府関係者、ノーベル賞関係者に対するヒアリング調査に基づき、日本の科学技術イノベーション政策にノーベル賞が果たしてきた役割について示す。また、ノーベル賞の授賞選考過程と運営体制、ノーベル賞受賞者の出身国の推移、日本人ノーベル賞受賞者のキャリアに関する分析などから、政策的課題を考察する。

特集論文Ⅱ ノーベル賞受賞者の特性分析から見える革新的研究の特徴
原 泰史/壁谷 如洋/小泉 周
 (政策研究大学院大学科学技術イノベーション政策研究センター専門職/
自然科学研究機構事務局/自然科学研究機構 研究力強化推進本部 特任教授)
ノーベル賞が意味するのは科学者の力か、あるいは国家の科学技術の優越性か。本論文では、基礎研究を評価し、その社会的な影響を把握するための手段としてのノーベル賞に着目する。なぜ近年、日本出身のノーベル賞受賞者は増加したのか。彼らにはどのような共通点があるのか。受賞者の増加には、どのような背景があるのか。これらの疑問に対し、ノーベル賞が授与された研究成果および、研究成果を生み出した科学者、特に、2016年にノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅良典教授の業績について精査することで、優れた科学的発見がどのようにして生み出され、どのように波及したのかを明らかにする。

特集論文Ⅲ スター・サイエンティストが拓く日本のイノベーション
齋藤 裕美/牧 兼充
(千葉大学大学院社会科学研究院准教授/政策研究大学院大学助教授)
本論文では、基礎研究の担い手であるサイエンティスト、特に「スター・サイエンティスト」に着目し、学術論文の生産のみならず、彼らが産業界で果たす役割やインパクトについて、先行研究を通じて考察する。特に、スター・サイエンティストと企業が何らかの形でかかわると、それぞれ研究業績および企業業績が上がるという「サイエンスと商業化における好循環」の関係が示唆される。また、先行研究を踏まえつつ、科学技術基本法以前の日本の産学連携についての新しい視点を提示するとともに、その背景に何があったかを日本のナショナル・イノベーション・システムの特徴を踏まえて考察する。結びに、直近の日本のスター・サイエンティストの現状について試論的な分析を行いつつ、スター・サイエンティスト研究の今後の課題について展望する。

特集論文Ⅳ 大学の研究力をどのように測るか?
小泉 周/調 麻佐志
(自然科学研究機構 研究力強化推進本部 特任教授/
東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授)
世界大学ランキングのような大学の順位づけが注目されている。しかし、それぞれに異なる使命と成果が求められる大学という組織を一律に評価し序列化するという発想そのものに無理がある。本論文では、学術研究にのみ焦点を絞り、大学の特徴を、研究分野ごとに検討する手法を提案する。特に、従来の研究成果を「量」(論文数など)と「質」(被引用回数トップ1%論文割合など)の観点で見るだけでなく、「厚み」という新概念を導入して評価することを提案したい。これを大学の研究分野別に当てはめて検討することによって、大学の強みを多角的に把握することができる。この手法を用いると、これまでの大学の順位づけでは見えなかった、分野ごとに特徴を持つ大学の姿が見えてくる。

特集論文Ⅴ 基礎研究重視へと変化する韓国――科学技術イノベーション政策の現状分析
チャ・ドゥウォン(韓国科学技術企画評価院 研究委員)
従来、韓国では基礎研究が軽視されがちであった。しかし、こうした傾向は1990年代以降に変化しつつある。本論文では、韓国政府の科学技術に関する総合計画である「基礎研究振興総合計画」にも携わった筆者が、同国の基礎研究の現状、政府および民間の研究開発支援の現況等を紹介した上で、優秀な基礎研究者の養成、基礎研究投資のあり方について論じる。論文の本数や被引用回数などの「数値目標」に基づく政策の是非、研究開発における過度な「選択と集中」の反作用など、韓国の基礎研究のあり方は日本にとっても参考とすべき点が多々あるだろう。

特集論文Ⅵ 5つの「なぜ?」でわかるノーベル経済学賞
安田洋祐(大阪大学大学院経済学研究科准教授)
ノーベル経済学賞は他の分野とかなり毛色の異なるノーベル賞である。本論文では、「経済学賞って本当にノーベル賞?」「受賞者はお年寄りばかり?」「受賞者はアメリカ人ばかり?」「経済学賞は権威に弱い?」「日本人は受賞できる?」という5つの疑問に答えながら、経済学賞の特徴をさまざまな角度から紹介する。また、ノーベル賞の選定に欠かせないであろう、新規性・無謬性・有用性という3つの基準が、どのように経済学賞の特徴に影響を与えているのかを分析する。さらに、筆者の大学院時代の恩師であるエリック・マスキンをはじめ、何人かの受賞者の業績についてはやや専門的な解説を加えた。期待の高まる日本人の初受賞に関しては、具体的な候補を挙げつつ近い将来の実現を予想する。

[経営を読み解くキーワード]
パッケージ
石井 裕明 (成蹊大学経済学部准教授)

[連載]ビジネスモデルを創造する発想法
[第4回]ビジネスの「当たり前」を疑う
井上 達彦(早稲田大学商学学術院教授)

連載]クリエイティビティの経営学
[第3回]クリエイティブ人材のマネジメントと落とし穴
稲水 伸行(東京大学大学院経済学研究科准教授)

[ビジネス・ケース]
こころみ学園/ココ・ファーム・ワイナリー――人が「働くこと」の意味を問い直す─知的障害者支援施設の挑戦
露木 恵美子/前田 雅晴 
(中央大学大学院戦略経営研究科教授/中央大学大学院戦略経営研究科修了生)
こころみ学園は、1969年に川田昇と数人の有志により設立された指定障害者支援施設であり、そこでは100人あまりの知的障害者が共同生活を営む。学園のもう1つの顔は、九州・沖縄サミットで供されたこともある上質なワインを生産するココ・ファーム・ワイナリーである。学園の前には勾配38度の急傾斜地にブドウ畑が広がり、そこで園生が手塩にかけて育てたブドウはすべてワインに加工される。こころみ学園の取り組みは、障害者雇用、農福連携、六次産業化といった言葉では語り尽くせない深さを持つ。本ケースでは、こころみ学園が現在の姿に至るまでの軌跡を振り返ることで、現代において、人が「働くこと」の意味を再考する。

土湯温泉――再生可能エネルギーを活用した地域復興
青島 矢一/山﨑 邦利 
(一橋大学イノベーション研究センター教授/一橋大学大学院商学研究科博士後期課程)
「日本一の清流」として知られる荒川水系に位置する福島県福島市の土湯温泉は、2011年の東日本大震災による建物倒壊や風評被害を受け、温泉町として存続の危機に直面した。この危機に対応すべく、地元の有志たちがすぐさま結集し、再生可能エネルギーを軸とした、地域復興とまちづくりの計画を策定した。その中心にあったのが、豊富な温泉熱資源と水資源を活用し、地熱バイナリー発電と小水力発電事業を行い、固定価格買取制度を活用して得た売電収入を地域復興とまちづくりに還元するというシナリオであった。発電事業は、現在ほぼ計画どおりの収益を生んでおり、地域には若い人材や観光客が戻りつつある。再生可能エネルギーを活用した温泉町の復興としては希有な成功例といえる。本ケースでは、町全体の発展を願う人々が主体的に協力し合い、さまざまな困難を乗り越えて、計画を成功に導いてきた過程を描く。

[マネジメント・フォーラム]
インタビュアー/米倉 誠一郎・赤池伸一・原 泰史
志ある若者を魅きつける「知の共創エコシステム」の創生を
野依 良治 (科学技術振興機構 研究開発戦略センター長)


[私のこの一冊]
■研究と教育、両立の果実――内田樹『私家版・ユダヤ文化論』
 神吉 直人 (追手門学院大学経営学部准教授)

■理論に支えられた経済小説集――大薗治夫『小説集 カレンシー・レボリューション』
 大薗 恵美 (一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授)

[投稿論文]
顧客との取引関係とサプライヤーの成果――日本の自動車部品産業の事例  
近能 善範(法政大学経営学部教授)

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